SNSや動画を眺めていると、「日本人はフィリピンで舐められている」という言葉が、妙に大きく響いて聞こえてくる日があります。フィリピン夜のラジオのVOKUです。9年間この国で暮らしてきた僕からすると、その言葉はずいぶん雑に束ねられていて、本当のことも嘘のこともごちゃ混ぜに放り込まれているように見えてしまうのです。今回は、あちこちで語られている「舐められてる話」を、ひとつずつ丁寧にほどきながら、本当のところを4つの角度からお話ししていきます。

① 治安が悪化していること、それ自体は本当のことです

最初にきちんとお伝えしておきたいのは、フィリピンの治安が以前より荒れているというのは、残念ながら事実だということです。この部分まで嘘扱いしてしまうと、逆に街の姿を見誤ってしまいます。大統領が変わってから空気がざらつきはじめたという実感は、日本人の駐在員の方々にも共通していますし、僕自身9年住んでいて、夜のトーンが少しずつ変わってきたことを肌で感じています。だからこそ、「舐められている」という言葉の中には、ぼんやりとした不安の正体として、治安悪化の手触りが混じっているのだと思うのです。ただ、「治安が悪い」と「日本人だけが標的にされている」は、まったく別の話なのです。ここを束ねてしまうと、ありもしない差別の物語に、現実を勝手に縫いつけてしまうことになります。

② 「KTVの前で強盗が集団で待っている」←これは嘘です

次にほどいておきたいのが、「最近はKTVの前で強盗が集団で日本人を待ち構えている」という、一時期あちこちで流れていた話です。結論からお伝えすると、これは嘘です。僕はこの件を疑問に思って、知り合いの警察関係者にも聞きましたし、実際にKTVで働いている女の子たちにも直接確認しました。どちらからも「そんな話は聞いたことがない」という答えが返ってきたのです。女の子の間ではお客さんにまつわる噂話は必ずと言っていいほど共有されますから、本当にそんな被害が頻発していれば、僕の耳に届かないはずがありません。もちろんマラテの一件のようにヒットマン被害はありましたが、それは「KTVの前で集団に囲まれる」という像とは、まったく違う事件です。恐怖を煽る画のほうが拡散されやすい、という事情がそこには見え隠れしていました。

③ 「日本人だけが狙われている」←これも違うのです

三つめは、「日本人ばかりが被害に遭っている」という語り方への違和感です。街で被害に遭っているのは、日本人だけではありません。現地の肌感覚でお伝えすると、被害件数だけで見れば、中国人や韓国人の方が多いというのが正直なところです。強盗や詐欺のターゲットは、国籍というよりも「外国人であること」「お金を持っていそうに見えること」「油断していそうに見えること」で選ばれていきます。つまり、日本人というラベルに狙いが向いているのではなく、外国人全員が、等しくリスクの射程に入っているという話なのです。「日本人が舐められている」と叫んでしまうと、この前提がまるごと抜け落ちてしまいます。自分たちだけが被害者だと思い込むと、かえって危険の本当の形を見落としてしまうのでしょう。

④ 「強盗を撃退した話」←これは本当にあったことです

最後に、嘘だらけの話の中にも、ひとつ本当のものが混じっていることをお伝えしておきます。「日本人が強盗を撃退した」という話は、嘘ではなく、実際にあったことです。9年いれば、そういう肝の据わった先輩方の話は、いくつも耳に入ってきます。ただし僕は、これを「日本人は強いから大丈夫」と誤解してほしくないのです。撃退できた方々に共通しているのは、腕力よりむしろ、その瞬間に頭が冷えていたことでした。場所の選び方、歩き方、財布の出し方、視線の配り方——普段の暮らしの中に、危機の芽を摘んでおく習慣があった人ほど、いざという瞬間に体が動けたのです。だから僕からお伝えしたいのは、「強さ」よりも「普段の備え」のほうが、ずっと身を守ってくれるという、ありふれた、でも大事な結論でした。

僕がお伝えしたかったこと:嘘と本当を、ちゃんと分けてください

「日本人が舐められてる」という言葉は、本当の話と嘘の話を、ひとつの袋にまとめて放り込んでしまっています。袋を開けて、一つずつ並べてみると、景色はかなり違って見えてくるのです。

  • ① 治安悪化は事実:ここは誇張ではなく、肌で感じる本当のことです。
  • ② KTV前の集団強盗は嘘:警察にも女の子たちにも、そんな話は流れていません。
  • ③ 日本人だけが標的ではない:むしろ被害件数は中韓の方が多いのが現実です。
  • ④ 強盗撃退は本当の話:ただし、それは腕力ではなく普段の備えの話でした。

恐怖を束で受け取らず、嘘と本当を一つずつほどいていくこと。それが、この街で落ち着いて暮らしていくための、いちばん静かな護身術なのかもしれません。